「過去問は3周」「10年分を5周」——宅建の勉強法では、まず周回数が語られます。ところが、同じ3周でも中身はまったく違います。すべての肢を毎回読み直す3周と、落とした肢だけを見ないで思い出す形で通した3周は、かかる時間も残るものも別物です。この記事では、周回数を数えるのをやめて、肢ひとつごとに「見ないで正解できた回数」を数えるやり方に切り替える手順を示します。記録の付け方、落とした肢を覚えられる形に変える方法、正解した肢をいつ間引くか、そして四肢択一に戻すタイミングまでを、出典を確認できた研究の範囲で組み立てます。この記事は、撮影から一問一答と穴埋めを作るアプリであるメモハック(MemoryHack AI)の運営者が書いています。
この記事の要点
- 周回数は学習量の指標であって、定着の指標ではありません。数えるなら、肢ひとつについて「見ないで正解できた回数」を数えます。
- Karpicke と Roediger(2008)は、一度正解できた項目をその後も読み直し続けた条件では1週間後の再生が伸びず、テストを続けた条件だけが伸びたと報告しています(https://doi.org/10.1126/science.1152408)。同じ研究で、参加者自身の成績予測は実際の成績と相関していませんでした。
- 宅地建物取引士資格試験は50問の四肢択一式による筆記試験で、出題の根拠となる法令は試験を実施する年度の4月1日現在に施行されているものとされています。採点は肢ではなく問単位なので、記録は肢単位、確認は問単位に分けます。
- 落とした肢は、解説を読んで終わりにせず、根拠の条文に戻して1か所だけ空欄にした形で回すと、次に何を思い出せばよいかが毎回同じになります。
- 同じ回数を回すなら、間隔を空けたほうが長期の保持は高くなります。最適な間隔の比率は試験までの期間によって変わり、Cepeda ら(2008)では1週間後のテストで約20〜40%、1年後で約5〜10%でした(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x)。
- 肢の判定が固まっても、個数問題や組合せ問題はそれだけでは解けません。仕上げは必ず本番形式の過去問に戻します。
なぜ「何周したか」では実力が測れないのか
周回数が測っているのは、教材の上をなぞった回数です。思い出した回数ではありません。両者は途中まで一緒に増えますが、正解できるようになった肢が出てきた時点で離れていきます。
Karpicke と Roediger(2008)は、この分かれ目を直接操作した実験を行いました。スワヒリ語と英語の単語ペアを教材に、一度正しく思い出せた項目をその後どう扱うかを4条件で比べたものです。1週間後の再生率は、正解のあともテストを続けた条件では約80%に達した一方、正解した時点でテスト対象から外した条件では約35%前後まで落ちました。正解のあとに読み直し(再学習)だけを重ねた条件では、成績はほとんど改善していません(https://doi.org/10.1126/science.1152408)。学習を左右していたのは、教材に触れた回数ではなく、思い出した回数でした。
同じ研究には、周回数を信じてしまう理由も書かれています。参加者自身による成績予測は、実際の成績と相関していませんでした。読み返した教材はすらすら読めるので手応えが出ますが、その手応えは1週間後に思い出せるかどうかを教えてくれません。「3周したから大丈夫」という感覚は、まさにこの手応えです。
学習法全体の評価も同じ方向を向いています。Dunlosky ら(2013)は代表的な10種類の学習法を検討し、練習テストと分散学習の2つだけに有用性「高」の評価を与えました(https://doi.org/10.1177/1529100612453266)。読み返しと下線引きは、どちらも「低」です。過去問は本来、練習テストそのものです。周回数で管理すると、練習テストだったものが読み返しに変質します。
1周の数え方を、ページから「肢」に変える
記録の単位を変えるだけで、次に何をすべきかが毎回はっきりします。宅建の過去問1問には肢が4つあり、正解を選べた問でも、残り3肢のうち理由を言えない肢が混ざっていることがあります。問単位の正誤だけを記録していると、この取りこぼしが見えません。
記録するのは、肢ひとつにつき次の3つだけです。
| 記録する項目 | 書き方 | 何に使うか |
|---|---|---|
| 判定 | ○(理由まで言えた)/△(結論は合っているが理由が曖昧)/×(落とした) | △と×だけを次の周回に残す |
| 根拠 | 条文番号、または「判例」「数値」などの種別 | 同じ根拠の肢をまとめて回すため |
| 見ないで正解できた回数 | 数字を1つ増やすだけ | 間引く判断に使う |
○は次の周回から外しません。間隔を長くして残します。理由は前節のとおりで、外した項目は落ちるからです。△を○と同じ扱いにしないことが要で、「結論は合っていたが理由は曖昧」は、本番で肢の言い回しが変わった瞬間に×になります。宅建で怖いのは知らない論点ではなく、知っているつもりの論点です。
判定が3種類しかないのは意図的です。5段階にすると、迷ったときに真ん中を選ぶ記録が増え、あとで見返したときに何をすべきか分からなくなります。「次の周回に残すか、残さないか」を決められる粒度が、記録として最小で十分な粒度です。
落とした肢を、そのまま覚えられる形に変える
解説を読んで納得した肢は、そのままでは次の周回で同じように落ちます。納得は理解の確認であって、思い出す練習ではないからです。落とした肢は、思い出す形に変換してから回します。
変換の手順は3つです。
- その肢が正しい/誤りだと言える根拠を、条文(または判例)まで戻す。 「誤り」で終わらせず、「◯◯法第◯条の◯◯という要件を満たしていないから誤り」まで書きます。
- その根拠の文を、1か所だけ空欄にする。 空けるのは、肢を誤りにしていた当の語句です。数値、期間、主体、「〜しなければならない」と「〜するよう努めなければならない」のような義務の強さが候補になります。
- 空欄を埋める形で回す。 出題は肢の文ではなく、根拠の文で行います。
3の点が、一問一答化と過去問の読み直しを分ける部分です。肢の文をそのまま覚えると、本番で言い回しが変えられたときに手がかりが消えます。根拠の条文の側を覚えておけば、肢がどう書き換えられても同じ1か所を照合すればよくなります。数値の扱いは宅建「法令上の制限」の数値が本番で出てこない——原則と例外を分けて回す手順で詳しく扱っています。
空欄を1か所に限るのは、判定を一意にするためです。2か所以上空けると、片方だけ思い出せたときに○と×のどちらにするかが毎回ぶれ、記録が使えなくなります。
条文の穴埋めが実際どういう形になるかは、宅建の条文穴埋めで試せます。問題文はe-Gov法令検索の条文そのままで、空欄にした語句のほかは一字も変えていません。インストールも登録も不要です。
正解した肢は、何回で間引いていいのか
「何周」への実務的な答えがあるとすれば、ここです。数えるのは教材を通した回数ではなく、ひとつの肢について日をまたいで見ないで正解できた回数です。
Rawson と Dunlosky(2011)は、この「どれだけやれば十分か」を正面から扱いました。同じ学習時間を使うなら、1回のセッションのなかで正答を積み増すより、正答に到達したあと日を分けて回すほうが、長期の保持あたりの効率が高いという結果です(https://doi.org/10.1037/a0023956)。裏を返すと、1日で同じ肢を5回解いても、その日のうちの4回目以降はほとんど買えていません。
実務に落とすと、肢の扱いは次のようになります。
| 日をまたいだ正解回数 | 次にいつ出すか | 記録の扱い |
|---|---|---|
| 0回(落としたまま) | 翌日 | ×のまま残す |
| 1回 | 2〜3日後 | △に上げる |
| 2回 | 1週間後 | △のまま |
| 3回以上 | 2週間〜1か月後 | ○。ただし外さない |
| 一度でも落としたら | 翌日に戻す | ×に落とす |
この表の最後の2行が要点です。3回正解できた肢も、間隔を長くして残すだけで、リストからは外しません。そして一度落ちたら短い間隔に戻します。宅建の学習期間は数か月あり、5月に3回正解した肢が9月まで無傷で残っている保証はありません。
なお、この表の数字は出発点です。Rawson と Dunlosky(2011)の条件はスワヒリ語・英語の単語ペアや概念定義の学習で、法令の事例判断とは教材が違います。自分の記録を見て、○に上げた肢が本番形式で落ちるようなら、間隔を短くしてください。
「何周」より効くのは「いつ回すか」
回数を固定したまま、間隔だけを変えても成績は変わります。Cepeda ら(2006)は多数の実験を統合したメタ分析で、同じ復習回数でも間隔を空けて分散させたほうが長期保持に優れることを示しました(https://doi.org/10.1037/0033-2909.132.3.354)。3周を1週間で終わらせるか3か月に散らすかは、同じ「3周」でも別の学習です。
では、どれくらい空けるのか。Cepeda ら(2008)は、最適な間隔の比率が保持期間によって変わることを示しました。1週間後のテストでは試験までの期間の約20〜40%、1年後のテストでは約5〜10%です(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x)。よく紹介される「試験までの期間の10〜20%」は、この関係を実務向けに丸めた目安にすぎません。宅建は例年10月の試験です。4月に始めるなら本番まで約6か月なので、目安は数週間おき、直前期に入れば数日おきに短くなっていきます。間隔の決め方そのものは忘却曲線に基づく復習のベストタイミングで扱っています。
実感が伴わないことも、あらかじめ知っておく価値があります。Roediger と Karpicke(2006)は、読み返しを重ねた条件が直後のテストでは最も高い成績を示しながら、1週間後には想起練習を含む条件に逆転されたことを報告しています(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x)。間隔を空けた復習は、その場では「忘れている」と感じます。その感触は、仕組みが働いている証拠でもあります。
過去問1年分を、実際どう配分するか
手順としてまとめると、1年分(50問・200肢)に対する流れは次のようになります。
- 本番形式で通して解く。 時間を計り、問単位で採点します。ここでは肢の記録を取りません。取ろうとすると本番形式の練習にならなくなります。
- 採点のあとに、肢単位で判定を入れる。 200肢に○△×を付けます。正解した問の肢も見ます。ここが最も時間を使う工程で、1年分でおおむね1〜2時間かかります。
- △と×だけを根拠の条文に戻し、穴埋めに変換する。 200肢のうち変換対象になるのは、最初の1年分でおおむね40〜80肢です。全部を作ろうとしないことが、作成で時間を溶かさない唯一のこつです。カードを作る手間そのものの費用対効果は一問一答を自作する時間は何と引き換えなのかで扱っています。
- 翌日から、穴埋めだけを前節の間隔で回す。 過去問そのものは開きません。開くのは次の年度分か、本番形式の確認のときです。
- 2週間後に、同じ年度を本番形式でもう一度解く。 ここで測るのは肢ではなく問です。肢の判定が固まっても個数問題を落とすなら、足りないのは知識ではなく形式への慣れです。
- 次の年度に進む。 前の年度の穴埋めは回し続けます。
この流れだと、過去問そのものを「周回」するのは1年度につき2回だけです。それ以外の時間は、落とした肢の穴埋めを回すことに使います。周回数を数えるのをやめると、回数はむしろ減ります。減った分が、思い出す時間に置き換わります。
配点のどこを取り切るかという上流の判断は、宅建の暗記法——宅建業法20問を取り切り、権利関係で沼らない配点戦略で扱っています。過去問集や一問一答をどこから調達するかは、宅建の暗記カードは作るか、買うか、生成するかにまとめました。
正直な限界
- 本記事は合格を保証するものではありません。効果には個人差があり、必要な学習量は前提知識によって変わります。
- 引用した研究の多くは、単語ペアや概念定義を教材とした実験です。法令の事例判断や、4つの肢を同時に評価する形式にそのまま一般化できるとは限りません。肢の判定が固まったあとで本番形式に戻す工程を省けないのは、このためです。
- 肢単位の記録は、1年分でおおむね1〜2時間かかります。学習時間がごく限られている場合は、この工程自体が負担になります。その場合は落とした問の肢だけに絞ってください。
- 間引きの表にある回数と間隔は出発点であり、最適値ではありません。自分の記録が示すとおりに調整してください。
- 試験形式・出題範囲・実施日を含め、最新の基準は必ず公式発表で確認してください。宅地建物取引士資格試験は50問の四肢択一式による筆記試験で、出題の根拠となる法令は試験を実施する年度の4月1日現在に施行されているものとされていますが、制度は変わりえます。
よくある質問
宅建の過去問は何周すればいいですか?
周回数では決まりません。同じ3周でも、毎回すべての肢を読み直す3周と、落とした肢だけを思い出す形で3回通した3周では、残るものが違います。Karpicke と Roediger(2008)は、一度正解できた項目をその後も読み直し続けた条件では1週間後の再生が伸びず、テストを続けた条件だけが伸びたと報告しています。数えるなら周回数ではなく、ひとつの肢について「見ないで正解できた回数」を数えてください。
過去問は何年分やればいいですか?
年数も、それ自体では答えになりません。まず直近の数年分を肢単位で解き、落とした肢が何問に集中しているかを見てください。落とした肢が特定の分野に偏っているなら、年数を増やすより、その分野の肢を条文に戻して覚え直すほうが早く効きます。分野が散っているなら年数を足します。判断材料は年数ではなく、落とした肢の分布です。
一度正解した肢も、もう一度解いたほうがいいですか?
解いたほうが安全です。Karpicke と Roediger(2008)の実験では、一度思い出せた時点でテスト対象から外した条件の1週間後の再生率は約35%前後まで落ち、テストを続けた条件では約80%に達しました。同じ研究で、参加者自身の成績予測は実際の成績と相関していませんでした。「もう覚えた」という手応えは、外してよい根拠にはなりません。間隔を長くして残すのが、外すより安全な扱いです。
一問一答で覚えれば、四肢択一でも解けますか?
そのままは移りません。宅地建物取引士資格試験は50問の四肢択一式による筆記試験で、個数問題や組合せ問題のように、4つの肢すべてを同時に判定しないと答えが出ない形式があります。一問一答と穴埋めは、肢ひとつを確実に判定できるようにするための道具です。肢の判定が固まったあとで、必ず本番形式の過去問に戻して、4つ並んだ状態で解けるかを確かめてください。
過去問を解くのと、カードを作るのは、どちらを先にすべきですか?
解くのが先です。先にカードを作ると、まだ落とすかどうか分からない肢まで作ることになり、作成だけで学習時間が尽きます。1年分を解いて落とした肢が確定してから、その肢だけをカードにしてください。落とす肢は解く前には分かりません。
参考文献
- Jeffrey D. Karpicke, Henry L. Roediger III (2008). The Critical Importance of Retrieval for Learning. Science. https://doi.org/10.1126/science.1152408
- Katherine A. Rawson, John Dunlosky (2011). Optimizing Schedules of Retrieval Practice for Durable and Efficient Learning: How Much Is Enough?. Journal of Experimental Psychology: General. https://doi.org/10.1037/a0023956
- Henry L. Roediger III, Jeffrey D. Karpicke (2006). Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention. Psychological Science. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x
- Nicholas J. Cepeda, Harold Pashler, Edward Vul, John T. Wixted, Doug Rohrer (2006). Distributed Practice in Verbal Recall Tasks: A Review and Quantitative Synthesis. Psychological Bulletin. https://doi.org/10.1037/0033-2909.132.3.354
- Nicholas J. Cepeda, Edward Vul, Doug Rohrer, John T. Wixted, Harold Pashler (2008). Spacing Effects in Learning: A Temporal Ridgeline of Optimal Retention. Psychological Science. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x
- John Dunlosky, Katherine A. Rawson, Elizabeth J. Marsh, Mitchell J. Nathan, Daniel T. Willingham (2013). Improving Students' Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest. https://doi.org/10.1177/1529100612453266