TOEIC・英検の単語はなぜ本番で出てこないのか——語彙研究から組み立てる復習間隔と文脈のつけ方
公開: 約15分メモハック開発者
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TOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)や実用英語技能検定(以下、英検)の単語帳を何周もしたのに、本番の英文で意味が出てこない。似た意味の単語が頭の中で入れ替わる。これは努力の量より、覚え方の設計で起きやすい詰まりです。語に焦点を当てた学習を統合したWebb, Yanagisawa & Uchihara(2020)のメタ分析では、英単語を見て意味を答えるテストの平均学習率が、即時テストの60.1%から遅延テストの39.4%へ下がっていました(https://doi.org/10.1111/modl.12671)。この記事では、第二言語の語彙研究で確かめられた範囲に絞り、復習の間隔と文脈のつけ方を今日から変えられる手順にまとめます。
単語帳を何周しても本番で出てこないのはなぜか
単語帳を周回すると「見れば分かる」単語は増えますが、本番で必要な「何も見ずに思い出す」練習と、それを日を空けて繰り返す間隔が不足しやすいためです。語に焦点を当てた学習でも、直後に答えられた単語の一部は、時間がたつと答えられなくなります。
Webb, Yanagisawa & Uchihara(2020)は、単語カード、単語リスト、書いて覚える、穴埋めという4種類の活動を扱った22研究のメタ分析です(https://doi.org/10.1111/modl.12671)。次の表は、同メタ分析が報告した即時テストと遅延テストの平均学習率を、テストの種類別に並べたものです。
| テストの種類 | 問われる力 | 即時テストの平均 | 遅延テストの平均 |
|---|---|---|---|
| 意味の再生 | 英単語を見て意味を答える | 60.1% | 39.4% |
| 形の再生 | 意味から英単語を答える | 58.5% | 25.1% |
これは4種類の活動を合わせた全体の平均で、特定の活動の値ではありません。形の再生のほうが遅延テストでの落ち込みが大きいため、英検の英作文や面接のように英単語を自分から出す場面では、英語から日本語を答える練習だけでは足りない可能性があります。
もう一つの原因は「一度正解したら終わり」にする回し方です。Karpicke & Roediger(2008)の外国語単語の実験では、一度正解した単語をテストから外して見直しだけを続けても遅延再生には効果がなく、テストを繰り返すことが大きなプラスの効果を生みました(https://doi.org/10.1126/science.1152408)。Roediger & Karpicke(2006)も、見直しの繰り返しは自信を高める一方、遅延テストでは事前にテストを受けたほうが保持が大きかったと報告しています(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x)。
語彙の復習間隔はどれくらい空ければよいのか
試験日が遠いほど間隔を長く取り、ただし試験までの期間に対する比率は小さくする、というのが現時点の研究から言える範囲です。第二言語学習の研究を統合した分析では、直後のテストでは短い間隔でも差がなく、遅延テストでは長い間隔のほうが有利でした。
Kim & Webb(2022)は、第二言語学習の分散練習に関する48実験から98の効果量を集めたメタ分析です(https://doi.org/10.1111/lang.12479)。分散練習は中程度から大きな効果を示し、短い間隔は即時テストでは長い間隔と同等でしたが、遅延テストでは長い間隔より効果が小さくなりました。間隔を一定にする方法と徐々に広げる方法は、統計的に同等でした。
Cepeda et al.(2008)は1,350人を超える参加者に事実を学ばせ、復習までの間隔と最終テストまでの期間を変えて比べました(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x)。最適な間隔は最終テストが遠いほど長くなる一方、テストまでの期間に対する比率は、1週間後のテストで約20〜40%、1年後のテストで約5〜10%へと小さくなりました。語彙ではなく事実の学習での結果で、学習者や教材によっても最適点は変わるため、この比率は目安として扱うのが妥当です。
次の表は、語彙の復習間隔に関わる研究結果と、試験勉強への読み替えを対応させたものです。
| 論点 | 研究で示されたこと | 試験勉強への読み替え |
|---|---|---|
| 分散か集中か | 分散練習に中程度から大きな効果(Kim & Webb, 2022) | 同じ日にまとめず、日を分けて回す |
| 短い間隔か長い間隔か | 遅延テストでは短い間隔の効果が小さい(Kim & Webb, 2022) | 翌日の復習だけで終えず、間隔を延ばす |
| 一定か拡大か | 統計的に同等(Kim & Webb, 2022) | 刻み方より、復習を欠かさないことを優先する |
| 試験までの距離 | 最適な間隔は遠いほど長く、比率は小さい(Cepeda et al., 2008) | 試験日が遠いうちは間隔を長めにしてよい |
暗記アプリで使われることのあるSM-2は、SuperMemoに由来する経験則です。一定間隔と拡大間隔が同等だったことも踏まえると、間隔の微調整より、決めた日に復習を欠かさないことに労力を割くほうが見合います。試験日から逆算する手順は復習間隔は試験日から逆算して決めるで扱っています。
例文つきで覚えれば定着するのか
注釈付きの例文をひとつ添える程度では、単語と訳のペアで覚える場合とテスト得点に差が出なかった、というのが代表的な実験の結果です。一方で、英文の文脈から意味を推測する学習でも、間隔を空けて出会い直すと意味を思い出す力が伸びることが示されています。
Webb(2007)は、日本人の英語学習者に目標語を「単語と訳のペア」と「注釈付きの例文ひとつ」で学ばせ、各単語を10通りの方法でテストしました(https://doi.org/10.1177/1362168806072463)。意味と形だけでなく、文法的な働きやほかの語との結びつき、綴りも測りましたが、両条件に有意差はなく、著者は例文ひとつの文脈は語彙知識にほとんど影響しない可能性があると述べています。
Nakata & Elgort(2020)では、日本語を母語とする英語学習者が英文の中で48の未知語に出会い、文脈から意味を推測したあと、英語の同義語と日本語訳でフィードバックを受けました(https://doi.org/10.1177/0267658320927764)。分散条件は集中条件より、意味の再生テストと意味と形の照合テストで上回りましたが、意味的プライミングという無自覚な知識の指標では同程度でした。
この研究は文脈つき学習にも間隔の効果が及ぶことを示したもので、単語カードより優れているかを比べたものではありません。例文は読み流すより、意味を推測してから訳で確かめる問いとして使い、間隔を空けて再び出会う形にするのが研究と矛盾しない使い方です。
似た意味の単語はまとめて覚えるべきか
覚え始めの段階では、意味の近い単語を同じ回にまとめないほうが無難です。まとめて学んでもテスト得点に差は出なかった一方、単語どうしを取り違える誤りが増えたという実験があり、間隔を空けることが意味の近い語に特に効くわけでもなかったためです。
Nakata & Suzuki(2018)は、日本人大学生133名に48組の英日単語ペアを集中条件と分散条件で学ばせ、半数を意味の近い語どうしにしました(https://doi.org/10.1017/S0272263118000219)。得点に有意差はありませんでしたが、意味の近い語では干渉による誤りが多く出ました。また、分散は意味の近い語にこそ効くという著者らの仮説とは逆に、分散の恩恵は無関係な語のほうが大きかったと報告されています。
類義語や言い換え表現が並んで載っている単語帳でも、最初は別々の回に出し、それぞれ単独で答えられるようになってから並べて違いを確認する順序が考えられます。これは研究で直接比べられた手順ではなく、干渉を避けるための工夫として扱ってください。
TOEIC・英検の単語を落とさない回し方の手順
手順の骨格は、訳を見る前に意味を答える、正解しても外さない、同じ回の中で同じ単語を続けて出さない、日を空けて間隔を延ばす、の四つです。そこに、例文を意味の推測に使うことと、意味の近い語を覚え始めの回で分けることを加えます。
Nakata, Suzuki & He(2022)は、一回の学習の中で同じ単語に再び出会うまでの間隔の長短を、初回学習と再学習の両方で組み合わせて比べました(https://doi.org/10.1111/lang.12553)。どちらも長い間隔にした条件は、学習時間が増えたにもかかわらず、長期保持と、試行あたりに覚えた語数で表す効率の両方で上回りました。
次の表は、ここまでの研究を一日の単語学習の手順に落とし込んだものです。
| 手順 | やること | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 答える | 英単語を見て、訳を見る前に意味を声に出すか書き出す | Roediger & Karpicke(2006) |
| 外さない | 正解した単語も次回以降のテストに残す | Karpicke & Roediger(2008) |
| 散らす | 同じ回の中では、ほかの単語を挟んでから再び出す | Nakata, Suzuki & He(2022) |
| 空ける | 同じ日にまとめず、日を分けて間隔を延ばす | Kim & Webb(2022) |
| 文脈で確かめる | 例文から意味を推測し、訳で答え合わせをする | Nakata & Elgort(2020) |
| 分ける | 意味の近い語は、覚え始めは別の回に出す | Nakata & Suzuki(2018) |
| 逆向きも回す | 英作文や面接で使う語は、意味から英単語を答える向きでも練習する | Webb, Yanagisawa & Uchihara(2020) |
メモハック(MemoryHack AI)は、教材のページを撮影するとAIが一問一答を作り、SM-2をもとにした間隔で復習の順番を並べるため、表のうち「答える」「外さない」「空ける」を、カードを作る手間をかけずに回す助けになります。
回し方が崩れていないかを点検するチェックリスト
正しい手順で始めても、忙しい日が続くと「見て分かったら次へ」の回し方に戻りやすいものです。当てはまらない項目が増えたら、周回数を増やす前に手順を戻してください。覚えたという感覚は実際の成績と一致しないことがあるため、書き出したかどうかという行動で判定します。
- 訳を見る前に、意味を声に出すか書き出している
- 正解した単語を、その日のうちに復習対象から外していない
- 同じ単語を、ほかの単語を挟まずに続けて出していない
- 前回から日を空けた単語が、今日の復習に含まれている
- 意味の近い語のセットを、覚え始めの同じ回にまとめていない
- 英作文や面接で使いたい語は、意味から英単語を答える向きでも練習している
- 例文は、意味を推測してから訳で確かめる形で使っている
「覚えた感」と実際に思い出せるかのずれを確かめる方法は、「覚えた感」はどこから来るのかで詳しく扱っています。
よくある質問
単語帳は何周すれば覚えられますか
周回数に決まった正解はありません。重要なのは見直した回数より、訳を見ずに思い出した回数とその間隔です。Karpicke & Roediger(2008)の外国語単語の実験では、一度正解した単語を見直すだけにしても遅延再生は伸びず、テストを続けることが大きな効果を生みました。正解した単語も外さず、日を空けてテストし続けることを目安にしてください。
例文は覚えなくてもよいですか
例文を丸ごと覚える必要を示す証拠は限られています。Webb(2007)では、注釈付きの例文ひとつで学んだ場合と単語と訳のペアで学んだ場合で、テスト得点に有意差がありませんでした。一方、Nakata & Elgort(2020)では文脈から意味を推測する学習でも分散の効果が見られたため、例文は暗記するより、意味を推測してから訳で確かめる問いとして使うのが現実的です。
類義語はまとめて覚えたほうが効率的ですか
覚え始めの段階では、同じ回にまとめないほうが無難です。Nakata & Suzuki(2018)では、意味の近い英単語をまとめて学んでも得点に有意差はなかったものの、取り違えによる誤りが増え、分散の恩恵も無関係な語のほうが大きいという結果でした。それぞれ単独で答えられるようになってから並べて違いを確かめる順序が、干渉を避けやすい設計です。
復習間隔はアプリ任せでよいですか
間隔を毎回自分で計算するより、アプリに任せて復習を欠かさないほうが続けやすいはずです。Kim & Webb(2022)のメタ分析では、間隔を一定にする方法と徐々に広げる方法は統計的に同等で、分散して復習すること自体には中程度から大きな効果がありました。ただしSM-2などの方式は経験則なので、試験日までの期間に合わせて調整する余地は残ります。
参考文献
- Kim, S. K., & Webb, S. (2022). The Effects of Spaced Practice on Second Language Learning: A Meta-Analysis. Language Learning. https://doi.org/10.1111/lang.12479
- Webb, S., Yanagisawa, A., & Uchihara, T. (2020). How Effective Are Intentional Vocabulary-Learning Activities? A Meta-Analysis. The Modern Language Journal. https://doi.org/10.1111/modl.12671
- Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The Critical Importance of Retrieval for Learning. Science. https://doi.org/10.1126/science.1152408
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention. Psychological Science. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x
- Cepeda, N. J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J. T., & Pashler, H. (2008). Spacing Effects in Learning: A Temporal Ridgeline of Optimal Retention. Psychological Science. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x
- Webb, S. (2007). Learning word pairs and glossed sentences: the effects of a single context on vocabulary knowledge. Language Teaching Research. https://doi.org/10.1177/1362168806072463
- Nakata, T., & Elgort, I. (2020). Effects of spacing on contextual vocabulary learning: Spacing facilitates the acquisition of explicit, but not tacit, vocabulary knowledge. Second Language Research. https://doi.org/10.1177/0267658320927764
- Nakata, T., & Suzuki, Y. (2018). Effects of Massing and Spacing on the Learning of Semantically Related and Unrelated Words. Studies in Second Language Acquisition. https://doi.org/10.1017/S0272263118000219
- Nakata, T., Suzuki, Y., & He, X. (2022). Costs and Benefits of Spacing for Second Language Vocabulary Learning: Does Relearning Override the Positive and Negative Effects of Spacing?. Language Learning. https://doi.org/10.1111/lang.12553