まとめノートに時間をかけるべきか——ノート作成の費用対効果と、代わりに回す手順
公開: 約16分メモハック開発者
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テキストを丁寧にノートへ書き写し、色を分け、見出しを整える。作り終えた瞬間の達成感は大きいのに、模試になると同じ論点で手が止まる——社会人の資格試験学習で最も多い詰まりのひとつです。Dunlosky ら(2013)は主要な学習法を有用性の高低で格付けし、要約(summarization)を低い有用性に分類しました(https://doi.org/10.1177/1529100612453266)。この記事では、まとめノートに使った時間が何と引き換えになっているかを一次資料で確認し、同じ時間を別の手順へ振り替える具体的な方法までを示します。ノートを禁じる話ではなく、作る段階と使う段階のどちらに時間を置くかという配分の話です。
まとめノートに時間をかける価値はあるのか
結論から言えば、作る作業そのものに置く時間は小さく抑えるのが妥当です。Dunlosky ら(2013)は主要な学習法を有用性で格付けし、要約を低い有用性に位置づけました。効果がゼロだからではなく、効果が出る条件が限られるためです。価値は作る段階ではなく、使う段階で決まります。
同論文は「Summarization and imagery use for text learning have been shown to help some students on some criterion tasks, yet the conditions under which these techniques produce benefits are limited」と述べる一方、練習テストと分散学習については「Practice testing and distributed practice received high utility assessments because they benefit learners of different ages and abilities and have been shown to boost students' performance」としています(https://doi.org/10.1177/1529100612453266)。
この格付けを、資格試験の学習で実際に取る行動に置き換えると次のようになります。
| 学習法 | 有用性の格付け | 資格試験での典型的な行動 |
|---|---|---|
| 要約(まとめノート作成) | 低 | テキストの内容をノートに書き直す |
| 再読 | 低 | テキストを最初から読み返す |
| 下線・ハイライト | 低 | 重要そうな箇所に色を引く |
| 練習テスト(想起練習) | 高 | 何も見ずに要件や数字を書き出す |
| 分散学習 | 高 | 同じ論点を日を空けて複数回扱う |
上の3行は、社会人学習者が最も時間を使いやすい行動でもあります。可処分時間が限られているほど、この配分のずれは積み上がります。
ノート作成のコストはどこに消えているのか
消えているのは、何も見ずに思い出す回数です。Kobayashi(2005)はノート作成あり・なしを比べた57件の研究をメタ分析し、ノートを取ること自体の符号化効果を「正の方向だが小さい」とまとめました。書き写している間、手は動いていますが、思い出す機会は一度も発生していません。
同論文は「Previous meta-analyses indicate that the overall encoding effect of note-taking is positive but modest」と述べ、さらに「recall test detected the encoding effect more than recognition and higher-order performance tests」として、効果が見えるのは書き出す形式の測定であって、選択式や応用問題ではないと報告しています(https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2004.10.001)。Rowland(2014)のメタ分析でも「initial recall tests yielding larger testing benefits than recognition tests」と、書き出す形式の優位が確認されています(https://doi.org/10.1037/a0037559)。
同じ学習コマをどう使うかで、その時間内に発生する「思い出す回数」と「弱点が見つかる量」が変わります。
| その時間の使い方 | 時間内に起きること | 弱点が特定できるか | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| テキストをノートに書き写す | 読む・書く。見ずに思い出す回数は増えない | 特定できない | Kobayashi(2005) |
| 見出しだけ見て白紙に再現する | 想起が発生し、出てこない箇所が露出する | その場で特定できる | Karpicke と Blunt(2011) |
| 一問一答形式で自己テストし採点する | 想起と正誤判定の記録が残る | 記録として残る | Rowland(2014) |
| 同じ範囲を日を空けて再訪する | 忘れかけた状態で想起する | 経時変化が分かる | Cepeda ら(2008) |
手書きのノートは本当に記憶に残るのか
ここは解釈が分かれます。Mueller と Oppenheimer(2014)は手書きのほうが概念を問う設問で優れたと報告しましたが、Morehead ら(2019)の直接追試では群間の差が一貫しませんでした。手書きか入力かを悩む前に、書いた後に何をするかを決めるほうが、判断としては先に来ます。
Mueller と Oppenheimer(2014)は3つの研究で「students who took notes on laptops performed worse on conceptual questions than students who took notes longhand」と述べ、原因を、講義を逐語的に書き写す傾向に求めました(https://doi.org/10.1177/0956797614524581)。一方 Morehead ら(2019)は直接追試と拡張を行い、「performance did not consistently differ between any groups (experiments 1 and 2), including a group who did not take notes (experiment 2)」と報告し、結論として「concluding which method is superior for improving the functions of note-taking seems premature」と述べています(https://doi.org/10.1007/s10648-019-09468-2)。
つまり「手書きのほうが残る」という通説は、現時点では強い根拠を持ちません。媒体の選択に判断コストを払う価値は小さく、その分を次のセクションの置き換えに回すほうが効きます。
ノートを作る代わりに何をすればよいのか
見出しだけを残し、中身は何も見ずに白紙へ再現する——この置き換えが最短です。Karpicke と Blunt(2011)は、想起練習がコンセプトマップ作成による精緻化学習よりも大きな学習の伸びを生み、その差は推論を要する設問でも観察されたと報告しています。作る作業を、思い出す作業に振り替えます。
同論文は「we show that practicing retrieval produces greater gains in meaningful learning than elaborative studying with concept mapping」「The advantage of retrieval practice was observed with test questions that assessed comprehension and required students to make inferences」と述べています(https://doi.org/10.1126/science.1199327)。コンセプトマップは、まとめノートと同じく「見ながら整理する」タイプの作業です。
手順は次の4つです。
- テキストの節見出しと小見出しだけを書き出す。本文は写さない。
- 見出しを見て、思い出せる内容を白紙に書き出す。この間、テキストは開かない。
- 書けた内容をテキストと突き合わせ、出てこなかった項目に印を付ける。
- 印の付いた項目だけを、日を空けて再訪する。
工程2と3の設計を細かく詰めたい場合は、想起練習の具体的な回し方を併せて参照してください。
印を付けた項目を問題形式に変換し、再訪の日付を管理する部分は、手作業だと続きません。メモハック(MemoryHack AI)は教材を撮影すると問題を自動生成し、SM-2 という経験則(ヒューリスティック)に基づく間隔で出題順を組み替えます。作る時間を削り、思い出す回数に振り替えるための道具として使えます。
すでに作ったノートから元を取る手順
作ったノートを捨てる必要はありません。Kobayashi(2006)は33件の研究をメタ分析し、ノートを取る段階と見返す段階の組み合わせが学習にどれだけ寄与するかを検討しました。既存のノートは、読み返す教材ではなく、白紙再現の答え合わせに使う解答集として置き直します。
同論文は「Meta-analyses of 33 studies were conducted to examine (1) how much the combination of taking and reviewing notes contributes to school learning」と目的を述べています(https://doi.org/10.1080/01443410500342070)。ノートの価値が見返す工程と束になっている以上、書き終えた時点で放置されたノートは、コストだけを支払った状態にあたります。
再訪の間隔については、Cepeda ら(2008)が「when measured as a proportion of test delay, the optimal gap declined from about 20 to 40% of a 1-week test delay to about 5 to 10% of a 1-year test delay」と報告しています(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x)。テストが1週間後なら約20〜40%、1年後なら約5〜10%と、期間が延びるほど割合は小さくなります。実務で使われる「テストまでの期間の10〜20%」は、この幅の中に置かれた出発点の目安にすぎず、個人差と教材差で動きます。試験日から逆算した組み方は復習間隔の設計手順にまとめてあります。
なお、忘却の測り方そのものにも注意が必要です。Murre と Dros(2015)が再現したエビングハウスの曲線は「Savings is defined as the relative amount of time saved on the second learning trial as a result of having had the first」と定義される節約率の測定であり(https://doi.org/10.1371/journal.pone.0120644)、「どれだけ覚えているか」という保持率とは別の指標です。忘却曲線の形をそのまま自分の保持率として読むと、再訪の設計を誤ります。
まとめノートが例外的に有効になる条件はどこか
散在する情報を一か所に集める必要があるときは、作る価値があります。複数の教材にまたがる横断論点や、条文と判例の対応のように、既存教材のどこにもまとまった形が存在しない場合です。逆に、テキストの章立てをなぞるだけのノートは、同じ情報を作り直しているだけになります。
作るか作らないかは、次の3つの問いで判断できます。
| 判断の観点 | 作る価値がある | 作らないほうがよい |
|---|---|---|
| その形の資料が既存教材にあるか | どこにもない(複数教材の横断整理) | テキストの章立てとほぼ同じ |
| 作った後に自己テストで使う予定があるか | 隠して再現する運用が決まっている | 読み返すだけの予定 |
| 手が止まる箇所を特定できているか | 誤答が集中する論点に絞れている | 範囲全体を最初から作ろうとしている |
3つとも左側に当てはまるなら作ります。ひとつでも右側なら、その時間は想起練習と再訪に回したほうが割に合います。行政書士試験の多肢選択や社会保険労務士試験の数字要件のように、出題が細部を問う科目ほど、この判断は効いてきます。
よくある質問
まとめノートを作るのは完全にやめるべきですか
やめる必要はありません。問題は効果の有無ではなく配分です。既存のテキストに整理済みの内容を書き写す作業は削り、複数教材の横断論点のように、どの教材にもまとまった形が存在しない部分だけをノートにします。この線引きだけで、作成にかかる時間の大半は削れます。
きれいなノートを作ると勉強した実感があります。これは間違いですか
実感が間違いというより、実感は達成度の指標として当てになりません。Roediger と Karpicke(2006)は、繰り返し読み直した学生のほうが自信は高かったにもかかわらず、遅れて実施した試験での保持は低かったと報告しています(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x)。何も見ずに再現できるかで確かめてください。
手書きとタブレット入力ではどちらが良いですか
現時点では解釈が分かれており、どちらかを強く勧める根拠は弱い状態です。媒体を選び直すより、書いた後に何も見ずに再現する工程を入れるかどうかのほうが、判断として先に来ます。すでに使い慣れている媒体を変えないのが無難です。
すでに何冊もノートを作ってしまいました。どうすればよいですか
読み返す教材ではなく、答え合わせ用の解答集として置き直してください。見出しだけを見て白紙に書き出し、その後でノートを開いて突き合わせ、出てこなかった項目に印を付けます。作り直すより、使い方を変えるほうが早く元が取れます。
参考文献
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving Students' Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- Kobayashi, K. (2005). What limits the encoding effect of note-taking? A meta-analytic examination. Contemporary Educational Psychology. https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2004.10.001
- Kobayashi, K. (2006). Combined Effects of Note-Taking/-Reviewing on Learning and the Enhancement through Interventions: A meta-analytic review. Educational Psychology. https://doi.org/10.1080/01443410500342070
- Karpicke, J. D., & Blunt, J. R. (2011). Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping. Science. https://doi.org/10.1126/science.1199327
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention. Psychological Science. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x
- Rowland, C. A. (2014). The effect of testing versus restudy on retention: A meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin. https://doi.org/10.1037/a0037559
- Cepeda, N. J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J. T., & Pashler, H. (2008). Spacing Effects in Learning: A Temporal Ridgeline of Optimal Retention. Psychological Science. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x
- Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking. Psychological Science. https://doi.org/10.1177/0956797614524581
- Morehead, K., Dunlosky, J., & Rawson, K. A. (2019). How Much Mightier Is the Pen than the Keyboard for Note-Taking? A Replication and Extension of Mueller and Oppenheimer (2014). Educational Psychology Review. https://doi.org/10.1007/s10648-019-09468-2
- Murre, J. M. J., & Dros, J. (2015). Replication and Analysis of Ebbinghaus' Forgetting Curve. PLOS ONE. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0120644