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メモハック

語呂合わせはどこまで効くのか——記憶術が向く範囲と、想起練習との併用設計

公開: 14メモハック開発者

試験直前に作った語呂合わせが本番で出てこない。あるいは語呂は口をついて出るのに、そこから元の条文や数値に戻せない。これは記憶力の問題ではなく、語呂合わせという技法が担える範囲を超えて使っている状態です。第二言語の語彙を用いた4つの実験(計218名の大学生)では、キーワード法(語呂合わせと同じく媒介を挟む記憶術)を指示された学習者のほうが、単純な反復よりも長期の忘却が大きいと報告されています(Wang, Thomas & Ouellette, 1992: https://doi.org/10.1037/0022-0663.84.4.520)。この記事では、語呂合わせが効く範囲と効かない範囲を切り分けたうえで、想起練習と組み合わせて本番まで持たせる設計手順を示します。

語呂合わせは記憶の何を助けているのか

語呂合わせが助けているのは、覚え込む段階(符号化)です。ばらばらの数字や順序に音の並びという手がかりを与え、思い出す入口を作ります。ただし本番で必要なのは、その入口から元の情報を復元する経路のほうです。入口を増やす作業と、経路を通す訓練は、別々の作業として分けて考える必要があります。

語呂合わせは「問い→語呂→答え」という媒介つきの経路を作ります。Miyatsu & McDaniel (2019) は、学習者がどの経路で答えに到達したかを尋ねる質問を実験に組み込み、キーワードを介した想起が媒介なしの想起より有効だったと報告しています(https://doi.org/10.3758/s13421-019-00936-2)。媒介が機能しているあいだは強い、というのが記憶術の実像です。

次の表は、記憶の3つの段階に対して、語呂合わせと想起練習がそれぞれどこで寄与するかを整理したものです。

段階何をする段階か語呂合わせの寄与想起練習の寄与
符号化情報を覚え込む大きい(手がかりを作る)小さい
保持時間経過に耐える小さい(媒介ごと薄れる)大きい
想起本番で取り出す媒介が残っていれば有効大きい(経路そのものを鍛える)

なぜ語呂合わせは時間が経つほど不利になるのか

復元の途中に媒介が1つ増えるからです。語呂を忘れても、語呂から元情報への変換を忘れても、答えには届きません。Wang, Thomas & Ouellette (1992) の4実験・計218名の大学生では、キーワード法を指示された学習者のほうが、単純な反復の学習者より長期の忘却が大きいと報告されています(https://doi.org/10.1037/0022-0663.84.4.520)。

Dunlosky et al. (2013) の評価も同じ方向を向いています。10の学習法を検討したこのレビューは、要約・ハイライト・キーワード法・文章学習での心像法・再読の5つを有用性が低いと判定し、キーワード法については有益なのが限られた教材と短い保持期間に対してであると述べています(https://doi.org/10.1177/1529100612453266)。裏を返せば、数か月先の試験を目標にするほど、語呂合わせ単独の分が悪くなります。

なお「時間が経つと忘れる」という現象の測り方自体にも注意が必要です。忘却曲線の再現研究では、1名の被験者が70時間かけてリストを学習し、20分・1時間・9時間・1日・2日・31日後に再学習するという手続きが取られ、再学習にかかる時間の節約量(節約率)で測定されています(Murre & Dros, 2015: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0120644)。保持している割合を直接測ったグラフではない、という前提は押さえておいてください。

語呂合わせが向く範囲と向かない範囲はどこで分かれるのか

分かれ目は、その項目に意味的なつながりがあるかどうかです。数値要件や期間、手続の順序のように理屈で導けない任意の情報には、語呂合わせが手がかりとして働きます。一方、趣旨の理解や未見の事例へのあてはめが問われる範囲では、語呂は答えの形そのものを与えないため、別の手段に切り替える必要があります。

下の表は、資格試験でよく出会う対象を、語呂合わせの適性で分類したものです。

対象の例語呂合わせの適性理由併用する手段
数値要件・期間・人数向く意味から導けない任意の情報数値を伏せた穴埋めの想起
手続の順序・並び向く順序自体に意味的手がかりが乏しい白紙に流れを書き出す
機関と権限の対応条件つき対応が多いと語呂が長くなり破綻する表を伏せて再現する
要件の趣旨・制度の理由向かない答えが一問一答の形を取らない声に出して説明する
事例へのあてはめ向かない未見の事例に語呂は転移しない過去問で判断を練習する

語呂合わせそのものの作り方は記憶術の基本で扱っています。ここで重要なのは、上の表で「向かない」に入る範囲に語呂を増やしても得点が動かない、という切り分けのほうです。

語呂合わせと想起練習はどう組み合わせるのか

順序を固定します。先に語呂で符号化し、そのうえで語呂を見ずに想起する練習を回します。Miyatsu & McDaniel (2019) は、1項目あたりの想起練習を2回に限った条件では、キーワード符号化がない場合に想起練習の効果が現れなかったと報告しており、符号化を先に置く順序には根拠があります(https://doi.org/10.3758/s13421-019-00936-2)。

同研究では、1週間後の遅延テストでキーワード法と想起練習の組み合わせがキーワード法単独より良好だった一方、キーワード符号化がない条件では想起練習の効果が現れませんでした。また、想起練習を4回に増やすと、キーワードなしでも限界的に有意な効果が現れています。つまり、想起の回数が十分に取れない項目ほど、符号化の設計が効いてくるということです。

想起練習そのものの優位は、材料と期間を変えた研究で繰り返し確認されています。Roediger & Karpicke (2006) では、5分後のテストでは再学習のほうが成績が高く、遅延テストでは想起練習のほうが保持が高いという逆転が観察されました(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x)。練習テストを非テスト条件と比較したメタ分析でも、練習テストのほうが有利だと結論づけられています(Adesope, Trevisan & Sundararajan, 2017: https://doi.org/10.3102/0034654316689306)。想起練習と精緻化の効果を切り分けて検討した研究もあります(Karpicke & Smith, 2012: https://doi.org/10.1016/j.jml.2012.02.004)。この効果の仕組みはテスト効果のメカニズムで詳しく扱っています。

今日から回す併用設計の4ステップ

4ステップです。対象を絞る、語呂から元情報への変換を書き出す、語呂を隠して想起する、間隔を空けて再訪する。1項目あたりの作業は数分で終わるため、まとまった机の時間がない日でも回せます。順序を入れ替えないことが唯一の条件になります。

次の表は、各ステップの作業内容と、そのステップを終えてよい目安をまとめたものです。

ステップ作業完了の目安所要
1. 絞る前節の表で「向く」に入る項目だけを選ぶ語呂を作る対象が一覧になっている10分
2. 変換を書く語呂の各音が何に対応するかを1行で書く語呂を見て元情報を復元できる1項目2分
3. 隠して想起語呂も答えも伏せ、問いだけを見て答える語呂を経由せず答えが出た回がある1項目1分
4. 再訪日を空けて3のみを繰り返す2回連続で正答した1項目30秒

ステップ3で「語呂を経由せず答えが出た回がある」を目安にしているのは、媒介が抜け落ちても答えに届く経路を作るためです。ステップ4の間隔は、目安として試験までの期間の10〜20%と紹介されることが多いものの、Cepeda et al. (2008) の測定では、最適な間隔はテストまでの遅延に対する比率で見ると1週間後のテストで約20〜40%、1年後のテストで約5〜10%へと縮んでいます(https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x)。教材の難度や個人の習熟度で最適点は動くので、上の比率は出発点として扱い、正答状況を見て詰めてください。

ステップ2と3の往復は手作業でも回せますが、項目数が増えるほど「どれをいつ再訪するか」の管理が破綻しやすくなります。メモハック(MemoryHack AI)は、教材から一問一答を生成して間隔を空けた再訪を自動で割り当てるため、ステップ3と4の管理を手放して想起そのものに時間を使えます。

語呂合わせを捨てる・作り直す判断基準

二度続けて答えに届かなかった語呂は、その場で作り直します。判断は原因別に分けます。語呂は出るのに答えが出ないなら、語呂と元情報の変換の設計ミスです。語呂そのものが出てこないなら、語呂が長すぎるか、自分で作っていない可能性が高くなります。直す場所が違うので、同じ「覚え直し」で処理してはいけません。

  • 語呂は出るが答えが出ない: ステップ2に戻り、音と対象の対応を1対1に書き直す。対応が3つを超えるなら項目を分割する。
  • 語呂が出てこない: 語呂を短くするか、語呂を捨てて数値を伏せた穴埋めの想起に切り替える。
  • 語呂は完璧なのに問題が解けない: その項目は前節の表で「向かない」側にある。理解の確認に手段を替える。
  • 本番形式で問われると崩れる: 語呂の練習ではなく、過去問の問い方で想起する回数が足りていない。

よくある質問

以下は、語呂合わせと想起練習の併用について実際に多い質問です。

語呂合わせは結局やめたほうがよいのですか

やめる必要はありません。数値要件や順序のように意味から導けない項目では、語呂合わせは覚え込む段階を確実に助けます。問題は語呂を作って終わりにすることで、語呂を隠して問いだけから答える練習を後に置けば、媒介が薄れても答えに届く経路が残ります。向かないのは、趣旨の理解や事例へのあてはめが問われる範囲です。

市販の語呂合わせと自作の語呂合わせでは、どちらがよいですか

作る時間が確保できるなら自作が有利になりやすい一方、市販のものが劣るわけではありません。判断基準は出所ではなく、語呂の各音が何に対応するかを自分の言葉で1行に書き出せるかどうかです。書き出せない語呂は、本番で語呂を思い出せても元情報に戻せません。書き出せるなら市販のものでも問題ありません。

語呂は思い出せるのに答えが出ないときはどうすればよいですか

語呂を覚え直すのではなく、語呂と元情報の対応表を作り直してください。この失敗は記憶量ではなく変換の設計に原因があり、1つの音に2つ以上の対象を割り当てている場合によく起きます。対応が3つを超えるなら、項目自体を分割します。そのうえで、語呂を伏せて問いだけから答える練習を回してください。

試験直前に新しい語呂合わせを作ってもよいですか

直前期は語呂合わせが比較的働きやすい局面です。保持しなければならない期間が短く、覚え込む段階の負担を下げる効果がそのまま残るためです。ただし新規に作る対象は、これまで何度も落としている数値や順序に限ってください。直前期に対象を広げると、想起の練習に充てる時間が削られ、全体としては不利になります。

参考文献